わたしがこれまでに実践し、試行錯誤しながらたどり着いている「現在のかたち」を、ここに記します。
これが完成形ではありません。
学び続け、関わり続ける中で、きっとまた変わっていくはずです。
それでも、いまのこの時点で伝えたいこととして、綴りました。
本当に届いているのか? ――深層筋アプローチから、感覚と気づきへ
かつて、わたしは「深層筋(いわゆるインナーマッスル)」へのアプローチを軸に、コンディショニングを組み立てていました。
身体の奥を整えることが、パフォーマンス向上やケガの予防に繋がる。そう信じていたからです。
実際に、一定の成果も出ていましたし、当時としては正しかったと感じています。
ただ、ずっと心のどこかに引っかかっていたことがありました。
■ 強い刺激・痛みの我慢
そして…やっぱり戻ってしまう
強く押す。無理に伸ばす。いわゆる「効かせるためのストレッチ」や施術。
それは時に痛みを伴い、「我慢できるか」が評価軸のようになっていたこともありました。
けれど、その時点で、選手の思考は止まってしまっていることも多く、
その後やっぱり身体が戻ってしまうことも少なくありませんでした。
さらに、痛みを乗り越えたはずの選手が、その後やる気を失ってしまう。
そんなケースも、実際にはとても多かったのです。
それでも当時は、「雰囲気をつくって」「笑わせながら」
なんとか取り組んでもらうようにしていました。
今思えば、それは笑いで包んで“言いくるめていた”だけだったのかもしれません。
選手自身の本当の気づきや納得がないまま、ただ方法論だけを押しつけていたこともあったと思います。
■ 戻るのは当たり前?
恒常性と“異常な状況”のはざまで
身体が元に戻るのは、ある意味で自然なこと。
人間には恒常性(ホメオスタシス)があり、変化に対して一定に保とうとする力が働くのは当然です。
けれど、痛みを我慢させた上での戻りは、本当に必要なプロセスだったのか?
むしろそれは、“身体の防御反応”が働いた結果だったのではないか?
そう思うようになりました。
■ 「触られたくない」「痛いのは嫌」
世界的な混乱をきっかけに
そして、世界的な混乱をきっかけに、
選手たちの身体の反応は明らかに変わってきました。
「触られたくない」「痛いなんて、もってのほか」
そうした声を耳にすることが増えたのです。
わたしはそれを、軟弱になったとは思いません。
むしろ、人としての感覚が繊細になったことの現れだと感じています。
その変化を前向きに受け取り、
わたし自身の指導や施術のアプローチも、見直すタイミングに来たと思ったのです。
■ いま届けたいのは、気づきである
わたしの講習会では、昔も今も「笑い」は大切にしています。
でもその裏には、明確な意図があります。
どんなにこちらが一方的に指導しても、
選手本人が“気づかない限り”本質的な変化は起こらない。
だからこそ、笑いや雰囲気だけに頼らず、
“実際の内容そのもの”で気づきを引き出すことを、今は最も大事にしています。
■ そしてたどり着いた、感覚からのアプローチ
「深層筋に効かせる」では届かない。
では、どうやって“本当に変わる”コンディショニングを届けるのか?
そのヒントは、皮膚と感覚受容器でした。
皮膚は身体の“入口”であり、浅い層には「感覚の受け取り窓口」が存在します。
■ メジマルパとは何か?
皮膚に存在する感覚のセンサー
皮膚には、感覚の受け取り窓口となる「感覚受容器」が層ごとに分布しています。
わたしはそれらを、「メジマルパ」とまとめて呼んでいます。
これは以下の5つの感覚受容器の頭文字をとった略称です:
- メルケル細胞(Merkel):持続的な圧力や形状の変化を感じ取る
- 自由神経終末(Free nerve endings):痛みや温度など、基本的な感覚を広く担当
- マイスナー小体(Meissner):軽い触れ合い、滑るような接触などを検出
- ルフィニ終末(Ruffini):皮膚の伸びや深部の圧を検出、筋緊張との関係も深い
- パチニ小体(Pacinian):深部の圧力や高周波の振動を感知する
これらは皮膚の表層から深層にかけて存在し、
まさに「外界と神経系をつなぐ入り口」として働いています。
この順序を意識しながら丁寧にアプローチすることで、
神経伝達の再教育(シナプス可塑性)が起こり、
筋緊張、関節制御、痛みの知覚、パフォーマンスにまで変化が起きるのです。
■ 感覚=Senseとはなにか?
わたしの定義
そもそも「感覚(Sense)」とは何か。
英語にすれば“Sense”ですが、
それは皮膚や筋肉の受容器だけでは説明できない。
もっと広く、もっと深いものです。
わたしはこう定義しています:
感覚とは、
身体(Body)・動き(Movement)・
意識(Mind)・心(Spirit)・
知識(Knowledge)
この五つの柱が統合されたもの。
これが、わたしが提唱するEpoch Fiveであり、
選手自身が「自分で自分を整える」ための土台です。
■ 最後に:繊細に、そして誠実に
強いアプローチではなく、
繊細な刺激を“きちんと受け取れる身体と心”を育てること。
それこそが、これからの時代の“本当の強さ”につながっていくと、
わたしは信じています。

※Epoch Five
― わたしが提唱する、感覚の土台となる五つの柱