11|“わたしの身体”を取り戻す

実感のある身体は、動きに意味を与える

「左右の差がよく分からない」
「ちゃんと動いているはずなのに、実感がない」
「手で触れても、違いが分からない」

——現場で、選手たちからこんな声を聞くことがあります。

筋肉は動いている。関節も動いている。
でも、“自分の身体としての感覚”がどこか抜け落ちている——
そんな状態に、わたしはこれまで何度も立ち会ってきました。

この“感覚の空白”は、単なる筋力低下や技術不足とは異なります。
「自分の身体が自分のものである」という実感そのものが、希薄になっている。
それが、動きの精度や反応、そして主体性にまで影響しているのです。

では、なぜそのような感覚が失われてしまうのか。
その背景には、「外部から与えられた動き」をなぞることの多さがあるように思います。

技術の型、見た目のフォーム、効率性の追求——
もちろん、それらはパフォーマンスの向上に欠かせない要素です。
しかし、「こう動くべきだ」という外部基準ばかりが優先されると、
身体の内側から湧き上がるような実感——
「これが自分の動きだ」という感覚が、いつの間にか置き去りになってしまいます。

だからこそ、センサーへのアプローチを通じて、
まず“自分の身体の状態”を感じることが、非常に大切になります。

皮膚、筋膜、関節、呼吸——
わずかな変化に静かに耳を傾けながら、
「いま、ここにいる自分」を感じる。
この実感が、やがて“自ら動きたくなる力”=主体性へと繋がっていきます。

“わたしの身体”を取り戻すことは、
ただの回復や修正ではなく、
「自分として生きる」ことの再構築です。

競技においても、人生においても、
自分の身体が自分のものであるという感覚は、かけがえのない土台になります。

わたしが目指すセンサリー・コンディショニングは、
この「身体との対話」を通じて、
選手やクライアント自身が「自分を取り戻していく」ことを支えているのだと、強く感じています。

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