無意識に届く“気”のアプローチ
はじめに|動き出す前に、すでに始まっているもの
動きには“始まり”があります。
でもその始まりは、筋肉の動きや身体の変化よりも前、
もっと奥にあるもの——意識の中にあると、私は考えています。
たとえば、椅子から立ち上がるとき。
手や脚が動くよりも前に、
「立とうかな」と思った瞬間に、身体の中ではもう“動きの準備”が始まっている。
私はそうした“始まりの感覚”に、日々の施術や指導の中で、何度も出会っています。
意識が動きを呼び起こす
私たちは動作の際、「無意識に動いている」と思いがちですが、
実際にはその前に、意識の奥で“場が整えられている”ように感じます。
たとえば、呼吸の変化。
視線のわずかな揺らぎ。
筋のほんのわずかな反応。
こうした変化が、意識が動いた証として現れる。
意識は見えないけれど、動き出しには確かに現れるものです。
実際、神経筋の研究では、
「動作を始める前から、脳と筋肉の間で同期が始まっている」ことが報告されています(Mantoneら)。
つまり、意識が生まれた瞬間に、身体もまた“始まりに向かって動いている”ということ。
その場に意識を向けることが、私たち指導者・施術者の第一の仕事なのかもしれません。
無意識も、かつては意識だった
無意識で動けるのは、「そこに至るまでの繰り返し」があったから。
そして、その繰り返しはいつも“意識”から始まっていました。
- 正しい動きを身につける
- 感覚のズレを修正する
- セルフケアで身体を整える
これらのプロセスの中で重要なのは、
“意識が深く届く”ように伝えることだと思っています。
単に「意識して」と言うだけでなく、
無意識に届くような“感覚の橋渡し”をする。
そのとき、私はいつも「気」の感覚を思い浮かべています。
“気”の流れが、意識の深さを決める
東洋医学では、「気は意識と身体をつなぐもの」と考えられています。
気が巡っているとき、意識はすっと奥まで届き、身体も自然に動き出します。
逆に、気の巡りが滞ると、
- 意識は表層で止まり
- 動きもどこかぎこちなく
- 身体の内側に“通じない場所”ができてしまう
だから私は、指導のときも施術のときも、
「気を通すように意識を届ける」ことを意識しています。
とても静かに、でも確かに届くように。
そうした意識の使い方が、
“無意識の底”に変化のきっかけを届けてくれるのです。
終わりに|動きは、深く静かな意識から
私たちの身体は、知識だけでは動きません。
技術だけでも変わりません。
意識をどこに置くか。
どのように届けるか。
そこに変化の“鍵”があると、私は感じています。
それは、動作の中にある“始まりの瞬間”を尊重するということ。
そして、無意識を整えるような“静かな意識”を育てていくということ。
これからも私は、その始まりを探しながら、
静かに、でも確かに、意識を届けていきたいと思っています。