Auto/Control/Flow
なぜ「意識はスキル」と言えるのでしょうか。
その答えは、意識が生まれつき固定された性質ではなく、構造を持ち、行き来しながら更新されていくものだからです。
わたしは、コンディショニング指導や施術の現場を通して、
意識というものが「ある/ない」「強い/弱い」といった単純なものではなく、
いくつかの層を行き来しながら育っていくことを、何度も目にしてきました。
この章では、その意識の構造を
Auto/Control/Flow という三つのレベルに分けて整理していきます。
“意識して”と言われても、どうすればいいのか
意識という言葉は、わたしたちの日常の中にごく当たり前に存在しています。
「もっと意識して」
「意識が足りないよ」
スポーツや施術の現場でも、こうした声かけは頻繁に聞かれます。
言ったことがある人も、言われたことがある人もいるでしょう。
けれど、その言葉を向けられた本人は、
「では、どうすればいいのか」が分からず、戸惑ってしまうことも少なくありません。
わたしはこれまで、多くの選手や患者さんと向き合うなかで、
「意識」という言葉が、とても曖昧に使われている場面を数多く見てきました。
それは、意識というものが本来とても多層的で、
しかも目に見えないものであるがゆえに起こる “ズレ” なのだと思います。
そこでわたしは、現場での経験をもとに、
意識を三つのレベルに分けて捉える方法を整理しました。
それが、
意識のスリーレベル
(Three Levels of Consciousness)
という考え方です。
この分類は、選手自身が「自分はいま、どこでつまずいているのか」を知るための手がかりになります。
同時に、指導者や保護者にとっても、選手を支える際の「地図」として機能します。
Auto(オート)──無意識の領域
Autoとは、本人が意識しなくても自然に行われている動きや反応のことです。
呼吸、歩行、無意識の姿勢調整などが、これにあたります。
Autoは、わたしたちの日常の大半を占める領域であり、安定しているように見える一方で、
手つかずのクセや偏りが、そのまま残りやすい領域でもあります。
つまり、「無意識=良い状態」とは限りません。
そこにエラーがあったとしても、本人にとっては “当たり前” すぎて気づけない。
Autoには、そうした見過ごされやすい落とし穴が含まれています。
Control(コントロール)──有意識の領域
Controlは、動きを意図的に操作しようとする段階です。
フォームを修正する。力の入れ方を調整する。違和感に気づき、立ち止まる。
ここは、学びの入口であり、ズレや違和感が立ち上がる場所です。
そのぶん、ぎこちなさや難しさを伴います。
しかし、このControlを避けてしまうと、意識は更新されません。
成長のためには、どうしても通らなければならないプロセスです。
Flow(フロー)──意図が通る状態
Flowは、有意識と無意識が噛み合い、
意図を持った行動が、スムーズに通っている状態です。
「何をしようとしているか」は分かっている。
目的も、方向も、意図もある。
けれど、考えすぎて動きが止まったり、
力んで動作が乱れたりすることはありません。
意図がそのまま動きに反映され、
感覚と行動が自然につながっている。
これが、わたしの捉えるFlowです。
Flowは、無意識に “勝手にできている” 状態ではありません。
Controlでの試行錯誤を経て、意図が感覚レベルまで落とし込まれた結果として、
動きが通るようになった状態です。
だからこそ、Flowは再現性を持ち、育てていくことができます。
意識は循環しながら育つ
Auto/Control/Flow、この三つのレベルは、優劣をつけるための分類ではありません。
また、一直線に進んでいくものでもありません。
意識は、
・ズレに気づく(Control)
・試す(Control)
・通る感覚を得る(Flow)
・定着する(Auto)
という流れを、行き来しながら循環的に育っていきます。
たとえば──
Autoで行っていた無意識のクセに気づき、Controlで修正を試みる。
Controlで取り組んだ動きが、Flowで「通る感覚」として掴める。
Flowで得られた感覚が、やがてAutoに落とし込まれていく。
そしてまた、Autoの中で新たなズレに気づくこともある。
この循環こそが、意識がスキルとして育っていく過程です。
スリーレベルが示すもの
第1章では、こうした「意識のスリーレベル」を整理することで、
「いま自分がどの段階にいるのか」
「なぜうまくいったのか/いかなかったのか」
「どこに気づきを向けるべきか」といった、
これまで見えにくかったヒントが、浮かび上がってくることを願っています。
次章では、Autoの質、さらには「ズレに気づく力」へと話を進めていきます。