Diary 樫の木通信

長引く痛みを
痛い場所だけで観ない

痛みが長引いている方をみる時、
わたしが常に大切にしていることがあります。

それは、
痛い場所だけを見ない
ということです。

腰が痛いから腰だけを見る。
脚が痛いから脚だけを見る。
背中が痛いから背中だけを見る。

もちろん、
痛みが出ている場所を確認することは大切です。

そこに何が起きているのか。
筋肉なのか。
関節なのか。
神経なのか。
動作の問題なのか。

それらを丁寧に評価する必要があります。

しかし、痛みが長引いている場合。
複数の医療機関や施術を受けても、なかなか改善が見られない場合。
痛みの場所が一か所ではなく、背中・腰・脚など広範囲に広がっている場合。

その時は、
痛い場所だけを追いかけても、
身体の全体像が見えてこないことが
かなり多くあります。

今回、あらためてそのことを強く感じる施術がありました。

なお、この記事では個人が特定されないよう、内容を一部要約・再構成しています。
また、特定の症状に対して同じ結果を保証するものではありません。
あくまで、ひとつの症例を通して、わたしがどのように身体を見立て、施術を組み立てたのかを記録するものです。

来院時は、すでにかなり複雑化した状態だった

今回の方は、いわゆる
「腰痛だけ」
で来院されたわけではありません。

来院時には、腰だけではなく、
背中、脚、そして両脚の太ももにもかなり強い痛み
がありました。

複数の医療機関や施術を受けてきたものの、
大きな改善にも、納得できる状態にもつながっていない。

SNSなどで目にした、広く知られているような施術先にも行かれたとのことでした。

それでも、ご本人としては、十分な改善を実感できていなかったようです。

ご本人としては、
かなり八方塞がりに近い状態だったのではないか
と思います。

実際、初回のお申し込み時には、
ご本人の方から、これまでの経過を非常に詳細にまとめた報告書を送ってくださいました。

これは、わたしからお願いしたものではありません。

それだけご自身の状態を何とか整理し、
これまでの経過を正確に伝えたいという思いがあったのだと思います。

そして同時に、
それまでの経過の長さや、改善しきらない不安の大きさ
も感じました。

最初に経過を伺った時、
わたしが特に慎重に見たのは、
両脚の太ももの痛み
でした。

片側ではなく、両側。
しかも、かなり強い痛み。

これは、単純な筋肉痛や局所の腰痛として、
軽く扱えるものではありません。

腰椎や股関節の問題。
神経症状。
内臓系の負担。
全身の疲労。
身体の回復力。
刺激への反応性。

それらを慎重に確認しながら進める必要があると感じました。

痛みが強い時ほど、強く攻めれば良いわけではない

強い痛みがあると、どうしても
強く治療しなければ
と考えたくなります。

硬い場所を強く押す。
痛い場所をしっかり緩める。
動かない場所を無理に動かす。
運動を入れて改善を狙う。

そうした方法が有効な場面もあります。

しかし今回の方の場合、
わたしは最初から強い刺激で進めることにはかなり慎重でした。

実際、初回は刺激を、
かなり弱めにして進めました。

その後、一定の楽さが出てきた一方で、
次の段階で軽い運動を入れると、また痛みが出る反応もありました。

この反応からも、今の身体は
「鍛えれば良い」
「動かせば良い」
という段階ではないと考えました。

身体そのものの回復力が落ちている。
刺激を受け取る許容量が狭くなっている。
痛みの場所というより、身体全体が防御モードに入っている。

そう感じました。

健康診断の結果から見えてきたこと

施術を進める中で、
健康診断の結果も確認させていただきました。

腎機能はC評価。
現時点で特別な処置が必要という段階ではないとのことでしたが、
腎機能はやや低めの評価
でした。

また、大腸ポリープの切除歴もあり、
大腸については医療機関で年1回程度のチェックを継続するという話になっているとのことでした。

その他の項目には、大きな異常はほとんどありませんでした。

ここで大切なのは、
腎臓が悪いから腰や脚が痛い
と単純に決めつけることではありません。

東洋医学でいう「腎」と、
医科的な腎機能は、まったく同じ意味ではありません。

ただ、臨床的には重なって見える部分が、いくつかあります。

腰や下肢の支え。
回復力。
疲労の抜けにくさ。
身体を下から支える力。
水分代謝。
全身の消耗感。

今回の方の状態を見ていると、
東洋医学的には
腎虚、さらに
気血両虚
の要素がかなり合うと感じました。

気が足りなければ、身体を動かす力が弱くなっていきます。
血が足りなければ、組織を養う力が弱くなっていきます。
腎が弱ければ、身体を深いところから支える力が落ちていきます。

そうなると、痛みを出している場所だけを刺激しても、
身体が回復する余力そのものが足りない
ことがあります。

まず行ったのは、全身を整えること

今回の施術で大切にしたのは、
痛い場所をいきなり強く攻めることではありません。

まずは全身を整えること。
特に、腎を上げることを念頭に置きながら進めました。

足まわり。
腹部(特に下腹部)。
上背部。
腰背部から骨盤まわり。
股関節。
呼吸。
胸郭。
全身の緊張の抜け方。

それらを確認しながら、
はり・きゅう・FIRV・手技にて、
刺激量をかなり慎重に調整
しました。

今回のように、身体の消耗が強く、
刺激に対する許容量が狭いと感じる場合、
強く変化を出すことが良いとは限りません。

むしろ、身体が安心して反応できる範囲を探すこと。
施術後に反動が出ないこと。
少しずつ回復に向かう条件を整えること。

そこを重視しました。

腰と脚の痛みは、かなり落ち着いてきた

施術を重ねる中で、
ご本人の表情や身のこなしには明らかな変化が見られるようになりました。

最新の施術前の段階で、
腰と脚については、ほぼ痛みがない
という話がありました。

これは非常に大きな変化です。

来院時の状態を考えると、
単に「少し楽になった」という程度ではなく、
ご本人にとってもかなり意味のある変化だったと思います。

ただし、ここで終わりではありませんでした。

まだ残っていた痛みがありました。

最後まで残る動作痛

最後まで残っていたのが、
肩甲骨を外へ動かす動き
胸椎を丸める動き
での痛みでした。

具体的には、
肩甲骨の外転
胸椎の屈曲
です。

この動きで痛みが残っていました。

ここで注目したのが、
胸郭まわりのロック
です。

前回の施術では、
脇の下の奥、前鋸筋、胸郭外側へのアプローチで大きな変化が見られました。

前鋸筋は、肩甲骨を肋骨の上で滑らせるためにとても重要な筋肉です。

長胸神経の支配を受け、
肩甲骨と胸郭の関係に深く関わります。

このあたりに強い防御反応や滑走不全があると、肩甲骨はうまく動けなくなります。

肩甲骨が動けなければ、胸郭も動きにくくなります。
胸郭が動きにくければ、背中や腰にも負担が波及します。

前回は、その前鋸筋・胸郭外側に触れながら肩甲骨をスライドさせていくと、
かなり強い痛みを覚えながらも、その後に大きな改善反応が見られました。

そして最新の施術では、
胸骨の外側、2〜4肋間あたりの肋間部
へのアプローチを行いました。

ここも、反応がかなり出ていました。

このように、全身の状態を観ながら整え、さらに反応を確認しながら、
慎重に少しずつ進めています。

その結果、最終的には、痛いと言っていた肩甲骨外転・胸椎屈曲の動きでも、
痛みがないという段階
まで進みました。

ご本人からは、
「この状態になってから、この動きで痛くなかったことがない」
という言葉がありました。

さらに施術の最後には、

「かなり良くなってきちゃった笑」
「本当に変わってきた」

という言葉もありました。

その上で次回の予約も取られ、
来院時とは明らかに違う軽やかな身のこなしでお帰りになりました。

これは、とても印象的でした。

ただし、
まだまだ、予断を許さない状態だと思っています。

一度大きく変化したからといって、
それで完了というわけではありません。

今後も、痛みの戻り方、日常生活での反応、疲労の出方、胸郭や腹部の状態、そして全身の回復力を確認しながら、
慎重に進めていく必要があります。

前鋸筋を触れば良い、という話ではない

ここで誤解してはいけないのは、
どこを触れば良い
どこを刺激すれば良い

という話ではないということです。

胸骨外側の肋間部を刺激すれば良い。
脇の下を触れば良い。

そういう単純な話ではありません。

今回、大きな変化が出た背景には、
その前段階
があります。

まず、足から全身を整えたこと。
腎虚・気血両虚を考え、身体の土台を立て直す方向で進めたこと。
腹部へのアプローチで、内側からの反応を見たこと。
刺激量を抑え、身体が受け取れる範囲を探したこと。
腰や脚の痛みが落ち着いてきた段階で、最後に残っていた胸郭まわりのロックに入ったこと。

この順番が大切だったと思います。

つまり、鍵になったのは「場所」だけではありません。

どの状態で触れるのか。
どの順番で進めるのか。
どの程度の刺激なら身体が受け取れるのか。
どこまで変化を出し、どこで止めるのか。

そこまで含めて、施術だと考えています。

流行っているか、有名かではなく、何を見ているか

今回の方は、これまでにもさまざまなところへ行かれていました。

SNSで目にするような、有名そうなところにも行ったとのことでした。

それでも、今回のような、ご本人が手応えを感じる改善は、起こっていなかった。

この事実には、正直に言えば、考えさせられるものがあります。

何を見ているのか。
何を治療しているのか。
何をもって「良くなった」と喧伝しているのか。

もちろん、他の治療や施術を否定するつもりはありません。

それぞれの立場や見方があります。

ただ、今回あらためて感じたのは、有名かどうか、流行っているかどうかではなく、

その人の身体に今何が起きているのか

をどれだけ丁寧に見られるかが大切だということです。

痛みの場所だけを見るのではなく、
痛みが抜けない理由を見る。

症状名だけを見るのではなく、
その人の身体全体の反応を見る。

テクニックを当てはめるのではなく、
身体が受け取れる順番を探る。

そこに、施術の本質があるのではないかと感じています。

痛みの場所ではなく、身体全体のつながりを見る

今回の痛みは、腰だけの問題ではありませんでした。

背中。
腰。
両脚の太もも。
足。
胸郭。
腹部。
腎の弱り。
気血の不足。
前鋸筋。
肋間部。
肩甲骨と胸椎の動き。

これらが別々に存在していたのではなく、
一つの身体の中でつながっていました。

だからこそ、痛みの場所だけを追いかけても、
見えてこないものがあります。

腰が痛いから腰だけ。
脚が痛いから脚だけ。
背中が痛いから背中だけ。

そうではなく、

なぜその痛みが抜けないのか。
身体のどこで滞り、ロックがかかっているのか。
どの順番なら、身体が変化を受け取れるようになるのか。

そこを見ていく必要があります。

今回の施術を通して、
その大切さをあらためて強く感じました。

まとめ

長引く痛みを
痛い場所だけで観ない。

これは、わたしが施術でもコンディショニングでも大切にしている考え方です。

痛みがある場所は、もちろん大切です。

しかし、痛みが長引き、複雑化し、複数の治療でも変化しない場合、
そこには痛い場所だけでは説明できない背景があります。

回復力。
内臓の負担。
気血の不足。
腎の弱り。
呼吸。
胸郭。
神経系の防御反応。
刺激への許容量。
動作の中で残るロック。

それらを一つずつ確認しながら、
身体が回復に向かえる条件を整えていく。

今回の症例は、その重要性をあらためて教えてくれました。

治療とは、ただ痛い場所を刺激することではありません。

その人の身体が、もう一度回復に向かえる状態をつくること。
そして、そのために全身を丁寧に観ること。

その姿勢を、これからも大切にしていきたいと思います。

気づいた人から変わり始める

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