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大は小を兼ねない─壊れゆく選手の身体が示していること

スキル指導をしている動画などを見ていると、多くの場合、まずコーチが見本を見せる場面があります。
そのなかには、「あ、この人はちゃんと動けているな」と思える指導者も多少います。細部まで連動しており、動きの構造が整っていることが伝わってきます。

しかし、次に映る選手たちの動きを見ると、違和感を覚えることがかなり多いです。
それは「上手いか下手か」ではなく─このまま続けたら壊れてしまうのではないかという、とても危ういものです。

そして、多くの場合、それが選手本人の努力不足として処理されてしまっているように感じます。
現場で見てきた実感として、それは決して見過ごしてはいけないことだと思っています。

■ 見た目ではわからない“壊れの始まり”

複合動作を繰り返すスキルトレーニング。
そのなかには、「代償」や「誤魔化し」が当たり前のように混ざっています。

たとえば、あるプレーで身体を捻る動作が必要な場面。
・うまくできている選手は、胸椎や股関節まで連動して全身で捻れています。
・一方で、胸椎が硬い選手は、腰椎を過剰に使って捻ろうとします。

その動きが最初は“できているように見える”ため、指導側も本人も気づけないまま進んでしまうことがあります。

けれど、そうした無意識の代償が繰り返されると、やがて腰や股関節に痛みが出てきます。
身体のどこかが破綻してから、ようやく「おかしい」と気づくのです。

■ 「大(複合動作)」は「小(最小単位の動作)」を兼ねない

こういった現象は、指導現場では珍しいことではありません。
むしろ、多くの選手が「壊れそうな動き」を“頑張って”続けているように見えます。

その背景には、
「複雑な動きを繰り返していれば、やがて上手くなる」という、根強い思い込みがあります。

しかし、それは違います。

複合動作は、構造的に整っていなければ反復の意味を持ちません。
むしろ、間違った動作パターンを反復し続けることが、身体の負担や故障の原因になってしまいます。

わたしは現場で何度も痛感してきました。

大は小を兼ねない

この言葉こそ、身体と向き合ううえでの真実だと感じています。

■ 小さく、適切に動かすことの難しさ

「小さく動かす」ことは、とても地味です。
そして、思っている以上に難しいものです。

うまく動かせていない部分ほど、ゆっくり動かすことができません。
スムーズにできないからこそ、他の部位で“代償”や“誤魔化し”が生まれてしまうのです。

では、なぜそんなことが起きるのでしょうか?

その一つの理由が、センサー(感覚受容器)のエラーにあります。
本来、身体の動きは「感じること」を通して整っていきます。

しかし、皮膚や関節、筋膜などに存在するセンサーが過敏あるいは鈍くなっていると、
選手本人は「動いているつもり」でも、実際には正確に動けていないことが多いのです。

これは、意識や気合では修正できない“感覚のズレ”です。

■ だから、分解して、気づかせて、整える

こうした構造的なエラーは、見た目では判断できません。
だからこそ、動きを最小単位に分解し、整えていくプロセスが必要になります。

この練習は、派手さのかけらもありません。
本人にとっては「退屈」「意味が分からない」「効果を感じにくい」と思えるかもしれません。

しかし、こうした“つまらないこと”の積み重ねの中にしか、本当の変化は生まれません。

だからわたしは、
感覚的に楽しくなるような工夫をしたり、
知識的な背景を共有したり、
時には笑える話を交えながら、選手に届くような指導を心がけています。

■ 何を反復するのか?

「反復は裏切らない」─よく耳にする言葉です。
ですが、それは正しい構造の上にだけ成り立つものだと思っています。

構造が崩れたまま反復することは、
努力を積み重ねるどころか、崩壊を加速させてしまう危険性すらあります。

■ 結び─身体の声を、聞いていますか?

わたしが見てきたのは、
“やる気のある選手”ほど、壊れていくという現実でした。

そこに責任を持つべきなのは、本来、選手ではなく、わたしたち指導者や保護者側なのかもしれません。

何を反復させるのか。
どの土台に、どの動きを載せていくのか。
それを見極めることが、選手の身体と未来を守る第一歩だと考えています。

選手の努力が、きちんと報われるように。
そのために、わたしはこれからも

“大は小を兼ねない”という現実

と、真摯に向き合っていきたいと思っています。

-Diary

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